「暑かはしき頃の日影を、厭ふ方にのみ明け暮らすほどに、今日になりけること、中々何事をうち出づべしとだに思ひ分かれね。明日よりは、いかに忘れにけりと、悔しき事も多からむ」と、つれなきものから、御涙の浮きぬるをうち見合はせ奉るに、さしもあらじと包む人目に包みかねて、ほろほろと乱れ落つるままに、やがてうつ伏して、見だに上げず。
「照りつける陽射しに、うんざりしながら過ごすうちに、今日の日になってしまいました、今さら何を申してよいものか。明日になれば、そなたは帰国の途につきわたしのことなど忘れてしまうと思えば、残念でなりません」と、ばかり申されて、涙を浮かべておられるのを見れば、后も弁少将をご覧になられて人目も憚らず、ぽろぽろと涙をこぼされたまま、顔を伏せられて、上げようとはしませんでした。
(続く)