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Santa Lab's Blog


「松浦宮物語」三(その41)

いつしかと初瀬にまうでて、かの法を行ふに、何のたがひ目やあらむ。月明き夜、山の峰におほきなる月の木の陰に、きんこゑ聞こゆれば、ただ一人下りて見給ふ。

はつせのや ゆづきがしたに てる月の ひかりをそでに まちうけてみる

おもひいる ちぎりしひけば はつせなる ゆづきがしたに かげはみえけり

寺におはし着きて、殿にかへり給へば、宮いかばかりかは、待ちよろこび給はむ。琴は雲に入りて飛び来にければ、御身放れず我が物とうち見付けたるは、蓬莱宮のけぢめもあるまじきにや、我がかのなつかしさ誘ひつつ、またたぐひなくぞ見え給ふ。




弁中将はかねてより願っていた初瀬(現奈良県桜井市にある長谷寺。『隠りくの』)に参詣して、華陽公主と約束した法会を行おうと訪ねることにしたのは、ちょうどあの夜と同じ頃のことでした。たいそう明るい月が天に上って、山の峰に大きな月がかかる頃木陰から、琴の音が聞こえたので、弁中将はただ一人尋ね行きました。
初瀬の弓槻ゆづき([槻]=[ケヤキ])の下で、照る月の光を濡れた袖に映しながら、あなたが訪ね来るのを待っていました。

心にかけた約束ならば、あなたの言葉通りに初瀬に参りましたが、まさか弓槻の下で再会することになろうとは。

長谷寺にともに着いて法会を行い、殿に帰ると、母宮は限りなく、弁中将の帰りをよろこびました。琴は雲間に上り殿に飛び来たっていました、華陽公主は身から離さなかった我が琴を見付けて、かつての蓬莱宮([蓬莱山]=[中国の神仙思想に説かれる三神山の一])が思い出され、なつかしみを覚えて、たいそううれしそうでした。


続く


by santalab | 2015-01-22 08:15 | 松浦宮物語

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