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「増鏡」北野の雪(その10)

その年九月の頃、左の大臣の日野山荘へ、一の院、新院、大宮院御幸あり。世になき清らを尽くさる。銀金の御皿ども、螺鈿らでんの御台、打ち敷、見馴れぬほどの事どもなり。院の御分、御小直衣こなほし皆具、夜の御ふすま、白御太刀、御馬二疋、唐綾、魚綾ぎよりようなどにて、二階作られて、御草子箱、御硯は、世々を経て重き宝の石なり。管絃の御厨子、楽器、色々の綾錦などにて、作りて置かる。女院の御方、新院の御分なども同じやうなり。大納言の二位殿にも、装束、守りの筥まで、いとなまめかしう、清らなるものどもありける。上達部、殿上人にも、馬牛引かる。銀のかたみを五つ組ませて、松茸入れらる。山へ皆入らせおはしまして、御覧の後、御土器かはらけ幾返となく聞こし召せば、人々も酔ひ乱れ、様々にて過ぎぬ。




文永ぶんえい四年(1267)の九月の頃でございましたか、左大臣(近衛基平もとひら)の日野山荘へ、一の院(第八十八代後嵯峨院)、新院(第八十九代後深草院)、大宮院(後嵯峨天皇中宮、西園寺姞子きつし。後深草天皇の生母)が御幸になられました。世にないほどのきらびやかさでございました。銀金のお皿、螺鈿([主に漆器や帯などの伝統工芸に用いられる装飾技法のひとつ。貝殻 の内側、虹色光沢を持った真珠層の部分を切り出した板状の素材を、漆地や木地の彫刻された表面にはめ込む手法])の御台([食事をのせる台])、打ち敷([家具などに敷く布製の敷物])は、見たこともない見事なものでございました。院(後嵯峨院)には、([上皇・親王や公卿が着用した略儀の装束])一揃え、夜の衾([夜具])、白太刀([つか・鞘などの金具をすべて銀で作った太刀])、馬二匹、唐綾、魚綾([上質の唐綾])などで、二階([二階厨子]=[寝殿造りの室内家具の一。二段になった棚の下に両開きの扉をつけた脚つきの戸棚])は飾られて、草子箱(本箱)、硯は、代々相伝の重宝の石作りでございました。管絃の厨子、楽器は、色々の綾錦で、飾られて置かれていました。女院(大宮院=西園寺姞子)の方、新院(後深草院)にも同じく用意されておりました。大納言二位殿(平棟子むねこ。後嵯峨天皇典侍)にも、装束、守りの箱([守り札を入れる箱])まで、とても華やかで、美しいものが用意されておりました。上達部、殿上人にも、馬が贈られました。銀の筐([花籠])を五つ組んで、松茸が入れられておりました。山へ皆入られて、ご覧になられた後、盃を幾返となく回されて、人々も酔い乱れ、様々な遊びをされて過ごされました。


続く


by santalab | 2015-01-22 08:21 | 増鏡

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