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「曽我物語」伊東の次郎と祐経が争論の事(その2)

きやうより下る者は、田舎ゐなかの子細をば知らで、急ぎ逃げ上り、一臈いちらふにこの由を訴ふ。「その儀ならば、祐経すけつね下らん」とて、出で立ちけるが、案者あんじや第一の者にて、心を変へて思ひけるは、人の僻事すると言ふを聞きながら、我また下りて、劣らじ、負けじとせんほどに、勝る狼藉らうぜき引き出だし、両方りやうばう得替とくたいの身となりぬべし、その上、道理だうりを持ちながら、親方に向かひ、意趣を込めん事、詮なし、祐経ほどの者が、理運の沙汰に負くべきにあらず、田舎よりかの仁を召し上せて、上裁じやうさいをこそあふがめと思ひ、当たるところの道理、差し詰め差し詰め、院宣ゐんぜんまうし下し、小松殿の御じやうを添へ、検非違使を以つて、伊東を京都きやうとに召し上せ、事のちきやうなる時こそ、田舎にて、横紙をも破り、打擲ちやうちやくども言ひけれ、院宣を成し、重ねてからく召されければ、一門馳せ集まり、案者・口聞き寄り合ひ、伴ひ談するといへども道理は一つもなかりけり。




京より下る者は、田舎のことは知らなかったので、急ぎ逃げ上り、一臈(工藤一臈=工藤祐経)にこれを知らせました。「そういうつもりならば、この祐経(工藤祐経)が下ろう」と申して、席を立ちましたが、計略に長けていたので、考えを改めて、他人(伊東祐親すけちか)が僻事([道理に合わないこと。悪事])を働くのを知りながら、このわたしが再び下り、引けを取らぬ、負けまいとすれば、これまで以上に祐親は狼藉([乱暴な振る舞いをすること])し、詰まるところどちらでもなく得替([領主が新しい領主に代わること])になるだけのこと、その上、当方に道理があるとは言え、親方に向かい、意趣([恨みを含むこと])を持ったとなれば、評判もよくなかろう、この祐経が、理運([道理に適っていること])の沙汰に負けるはずもない、田舎よりかの仁(伊東祐親)を呼んで、上裁([上奏されたものに対する天皇の裁可])を仰ぐべしと思い、余すところなく道理を、尽くして、院宣([上皇からの命令を受けた院司が、奉書形式で発給する文書])を賜り、小松殿(平重盛しげもり)の状を添え、検非違使を遣って、伊東(祐親)を京都に上らせて、事のちきやう(治定ぢぢやう=決まりきってきること?)ならば、田舎では、横紙をも破る([無理を押し通すこと])、乱暴者([打擲]=[打ちたたくこと。なぐること])とはいえ、院宣をもってして、重ねて厳しく呼ばれたので、一門が急ぎ集まり、案者(知恵のある者)・口聞き([交渉や談判などのうまい者])が寄り合い、話し合いましたが道理と思えるものは一つとしてありませんでした。


続く


by santalab | 2015-02-28 09:00 | 曽我物語

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