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「宇津保物語」藤原の君(その59)
ここは、大将殿。貴宮・今宮、物参る。簀の子に、侍従の君、殿籠れり。御達、簾の内に居て物言ふ。
侍従、松の枝折りて、持ち給へり。
やとせて、貴宮に文奉りて、足摺りをして泣く。
君達二所、兵衛の君など居て、人の御返り聞こえたり。三の皇子、琵琶弾き給ひて、居給ひて、貴宮に物聞こえ給へり。
ここは左大将(源正頼)の殿です。貴宮(正頼の九女)・今宮(朱雀院の女一の宮)が、食事をしています。簀の子縁([寝殿造りで、広庇の外に造った板縁])には、侍従の君(正頼の七男、仲澄)、殿(正頼)がいます。御達([宮中・貴族の家に仕える上級の女房たち])は、御簾の内でおしゃべりをしています。
侍従の君(仲澄)は、松の枝を折って、手に持っています。
八年子([幼い子]=[正頼の子、あこ君のこと])が、貴宮に文を渡しながら、足をばたばたさせて泣いています。
君達(正頼の子)二人、兵衛の君(正頼の五男、顕澄でしょうか)も居て、貴宮の返事を聞いています。三の皇子(朱雀院の皇子)も、琵琶を弾きながら、同じ所に居て、貴宮に話しかけています。
(続く)
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