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「曽我物語」杵臼・程嬰が事(その8)

その時、国王こくわう和睦くわぼくの心を成し、数千人すせんにんつはものを差し添へ、かれら隠れたる山へ押し寄せ、四方しはうを囲み、ときこゑをぞ上げたりける。杵臼しよきうは、思ひまうけたる事なれば、しづまりかへりて、音もせず。程嬰ていえい、進み出でまうしけるは、「これは、かうめいわうの太子屠岸賈とがんかやまします。程嬰、討つ手にまゐりたり。雑兵ざふひやうの手に掛かり給はんより、急ぎ自害し給へ。逃れ給ふべきにあらず」と申しければ、杵臼しよきう立ち出で、「若君のまします事、隠し申すべきにあらず。待ち給へ。御自害あるべし。さりながら、今日けふ大将軍たいしやうぐんの程嬰は、昨日きのふまでは、正しき相伝さうでんの臣下ぞかし。一旦の依怙ゑこぢゆうすとも、つひには、天罰降り来たり、とほからざるに、失せなん果てを見ばや」とぞ申しける。




程嬰ていえいの言葉を聞いて、国王は、親しみを覚えて、数千人の兵を差し添え、かれらが隠れている山へ押し寄せ、四方を取り囲み、閧の声を上げました。杵臼にしてみれば、予期していたことでしたので、鎮まり返り、音もしませんでした。程嬰が、進み出て申すには、「ここに、かうめい王(孝明帝)の太子屠岸賈はおられるか。程嬰が、討手に参った。雑兵の手に掛かられるよりも、急ぎ自害されよ。逃れることはできぬ」と申せば、杵臼が現れて、「若君がおられること、隠し申さぬ。待ち給え。自害なされるのを。とは申せ、今日の大将軍の程嬰は、昨日までは、まさに相伝の臣下であろう。一旦の依怙([私利])に溺れるとも、遂には、天罰が降り来て、遠くはないうちに、失せるその時を見たいものよ」と申しました。


続く


by santalab | 2015-03-22 08:01 | 曽我物語

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