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「曽我物語」杵臼・程嬰が事(その9)

程嬰ていえい、これを聞き、「時世ときよに従ふ習ひ、昔は、さもこそありつらめ、今また、変はる折節をりふしなり。さればにや、君も、御運も尽き果て、めいつづまり給ふぞかし。いたづら事に関はりて、命失ひ給はんより、兜を脱ぎ、弓の弦をはづし、降参かうさんし給へ。いにしへの情けを以つて、助くべし」とぞ言ひける。十一歳のきくわく、討つ手は父よと知りながら、予ねて定めし事なれば、父重代ぢゆうだいの剣を横たへて、高き所に走り上がり、「如何に、人々、聞き給へ。かうめいわうの太子として、臣下の手に掛かるべき事にもあらず。また、臣下心変はりも、恨むべきにもあらず。ただ前業ぜんごふつたなけれ。さりながら、そのいへ久しき郎等らうどうぞかし。程嬰ていえい、出で給へ。日来のよしみに、今一度見参げんざんせん」と言ひければ、程嬰、我が子の振る舞ひを見て、心安く思へども、忍びの涙ぞ進みける。




程嬰は、これを聞いて、「時世に従うのは世の習い、昔は、そうであったが、今はまた、世の変わる折節である。ならばこそ、君も、運も尽き果て、命を縮めることになったのだ。無駄に、命を失うより、兜を脱ぎ、弓の弦を外し、降参し給え。昔の情けだ、命ばかりは助けてやろう」と申しました。十一歳のきくわくは、討手が父と知りながら、予ねて決めたことでしたので、父から譲られた重代の剣を携えて、高所に走り上がり、「わたしはここだ、人々よ、聞きなさい。かうめい王の太子として、臣下の手に掛かることはできぬ。また、臣下の心変わりも、恨むものではない。ただ前業の拙さ故のことだ。とは申せ、その者は長く仕えた郎等([家来])だ。程嬰よ、前に出よ。日来の好みだ、今一度見参しよう」と申せば、程嬰は、我が子の振る舞いを見て、安心しつつも、忍び涙が溢れました。


続く


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by santalab | 2015-03-23 09:00 | 曽我物語 | Comments(0)

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