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「曽我物語」奥野の狩りの事(その6)

海老名の源八げんぱちさかづき控へて、まうしけるは、「これは、めでたき世の中を、夢現とも定め難く、昔語りにならん事こそ、悲しけれ。老少らうせう不定ふぢやうと言ひながら、若きは、頼みあるものを、若殿ばらのやうに、舞ひ歌はんと思へども、膝振るひ、こゑも立たず、りうせきが、塚より出でて、はんらうが、茫然ばうぜんとせし様に、酒盛れや、殿ばら。あはれ、きみかくありし時は、これほどの盃二三十飲みしかども、座敷に伏すほどの事はあらねども、老いのきはめやらん、腰膝の立たざるこそ、悲しけれ。白居易はつきよいが昔、思ひ出でられたり。




海老名源八(海老名季貞すゑさだ)、盃を持ちながら、申すには、「今は、まことめでたい世の中よ、夢現とも知れず、昔話になってしもうた我が身が、悲しい。老少不定([人間の寿命がいつ尽きるかは、老若にかかわりなく、老人が先に死に、若者が後から死ぬとは限らないこと])と申しながら、若者には、先があるというものよ、若殿たちのように、舞い歌おうと思えど、膝は震え、大声も出せず、りうせき(劉伶りゆうれい。竹林の七賢=中国三国時代の時代末期に、酒を飲んだり清談を行なったりと交遊した七人の称。の一人。酒浸りで、妻が心配して意見したところ、自分では断酒できないので、神様にお願いすると言って酒と肉を用意させると、祝詞をあげて、女の言うことなど聞かない、と言って肉を食い酒を飲んで酔っぱらったらしい)が、塚より出て、はんらう(伯倫はくりん。伯倫は劉伶のあざな)が、茫然としたように、酒盛りせよ、殿たち。あはれ、きみかくありし(若かりし?)頃は、これほどの盃二三十飲んだところで、座敷に酔い潰れることはなかったが、すっかり老いてしもうた、腰膝も立たん、悲しいことじゃ。白居易が書いた昔(『酔吟詩』)を、思い出すようじゃ。


続く


by santalab | 2015-04-01 08:01 | 曽我物語

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