人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「曽我物語」同じく相撲の事(その2)

滝口、たまらぬをとこにて、「首を捕るか、捕らるるか、力は、外にもあらばこそ。いざや、老いの御さかなに、力比べの腕相撲うでずまふ一番」と言ふままに、座敷を立ち、直垂ひたたれを脱ぎ、「何ほどの事のさうらふべき。しや肋骨あばらぼね二三枚、掴み破りて、捨つべきものを」とて、つつと出でけり。弥五朗やごらうも、「心得たり。物々し。力拳ちからこぶしこらへんほどは、命こそ限りよ」と言ひ、座敷を立つ。一座の人々、これを見て、あはや、事こそ出で来ぬと見るほどに、近くにありける合沢あひざはまうやう、「余り囃し、滝口殿。相撲すまふは、小童こわらんべ冠者くわんじやばらに、先づ取らせて、取り上げたるこそ、面白けれ。大人げなし、滝口殿。止まり給へ」と引き据ゑたり。




滝口は、逸りの男でしたので、「首を捕るか、捕られるか、力持ちは、お主ばかりでない。どうだ、老いの肴に、力比べの腕相撲を一番」と申すままに、座敷を立ち、直垂([鎧の下に着る着物])を脱ぎ、「相手にもなるまい。やつの肋骨二三本、掴み追って、捨ててやろう」と申して、つつと前に出ようとしました。弥五朗も、「待っておったぞ。小賢しい奴め。わしの力拳を防げないときは、命の限りと思え」と申して、座敷を立ちました。一座の人々、これを見て、ああ、事が起こったと思うほどに、合沢は滝口に近く寄り、申すには、「しばし黙らぬか、滝口殿。相撲は、小童、冠者どもに、まず取らせて、場を盛り上げてから、取るもの。逸るのは大人げないぞ、滝口殿。しばらくじっとしておれ」と申して止めました。


続く


by santalab | 2015-04-06 08:09 | 曽我物語

<< 「曽我物語」同じく相撲の事(その3)      「曽我物語」十郎が討ち死にの事... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧