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「曽我物語」二宮の太郎に会ひし事(その1)

道のすゑを見渡しければ、むま乗り五六騎出で来たる。十郎じふらう見て、「二宮殿と思えたり。いざや、この事一はし語らん」と言ふ。五朗ごらう聞きて、余りの事なれば、返事もせず。ややありてまうしけるは、「如何で斯様かやうの大事、むこには知らせさうらふべき。異姓いしやう他人にては候はずや。如何なる人か、世になき我らが死にに行くと語らはんに、同意する者や候ふべき。対面計りにて、御とほり候へ」。十郎聞きて、「御分の心を見んとてこそ」と雑談ざふたんして、あひ近くなりければ、この人々、馬より下り、弓取りなほし、色代す。「人々、何処いづくへ行き給ふぞや」。「鎌倉殿、富士野御狩みかりと承り、狩座かりくらていまゐらせて、末代の物語にと思ひ立ちて、罷り出で候ふ」とまうす。




道の彼方を見渡せば、馬に乗った武士が五六騎やって来るところでした。十郎(曽我祐成すけなり)はこれを見て、「二宮殿(二宮朝定。曽我兄弟の姉婿)ではないか。どうだ、仇討ちのことを話してみるか」と言いました。五朗(曽我時致ときむね)は聞いて、思いもしないことでしたので、返事もしませんでした。しばらくして申すには、「どうしてこのような大事を、姉婿に話すのです。赤の他人ではありません。そうでなくとも何人が、世にあるとも思えぬわたしたちが死にに行くと話して、同意することがありましょう。挨拶だけで、通り過ぎましょう」と言いました。十郎(祐成)はこれを聞いて、「お主の心を試したまで」と話しているうちに、間近くなったので、兄弟は、馬から下りて、弓を持ち直し、色代([挨拶])しました。二宮殿が「人々よ、どこへ行くところだ」と訊ねました。「鎌倉殿(源頼朝)が、富士野で狩りをされるとお聞きして、狩座([狩り場])の様子でも見て、末代に伝えようと思い立ち、やって来たのです」と答えました。


続く


by santalab | 2015-04-15 13:11 | 曽我物語

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