Santa Lab's Blog


「曽我物語」二宮の太郎に会ひし事(その2)

義実よしざね聞きて、「あはれ、人々、無用の見物かな。馬・鞍見苦しくての見物、しかるべからず。これよりかへり給へ。それがしをも、御供とまうされつるを、見苦しさに、風気かざけの由、梶原かぢはらが方へ申して遣はしさうらふぞ。面々も、ただこれより帰り給ひて、二宮に逗留とうりうし、笠懸かさかけなど射て、遊び給へ」とまうしければ、十郎じふらう、「もつとも畏まり存じさうらへども、斯様かやうの事、あり難し、見物と存じ、すでに思ひ立ち候ふ。馬は山をば引かせ候ふべし。帰りにはまゐり、しばし逗留仕り候ふべし。まうさかな御用意候へ」と申しければ、「このうへは、御帰りをこそ待ちまうすべし」とて、馬引き寄せ打ち乗り、東西へ打ち別れけり。ただ世の常とは思へども、これぞ最後なりける。さても、我ら討ち死にの後、形見ども送りなん。その時、男子をのこごなりせば、一道にこそなるべきに、をんなの身の悲しさは、それこそ適はずとも、道より最後の言伝てだにもなかりつるよと恨み給はん事、疑ひなし。心ざしのほどこそ、無慙なれ。




義実(岡崎義実)はこれを聞いて、「何と申すかと思えば、人々よ、見物などやめておけ。粗末な馬・鞍で見物するなど、めっそうもないことよ。これより帰られよ。このわしも、お供にと申されたが、もうこの歳じゃ、風気([風邪])と申して、梶原(梶原景時かげとき)の方へ辞退申して遣わしたところよ。面々も、悪いことは申さぬこれより帰られて、二宮(現神奈川県中郡二宮町)に逗留し、笠懸([疾走する馬上から的に鏑矢を放ち的を射る、日本の伝統的な騎射の技術])など射て、遊べばよかろう」と申せば、十郎は、「ありがたいお言葉ですが、帰るつもりは、ございません、見物しようと、出て参ったのです。馬は山へ引かせます。帰りには参って、しばらく逗留いたしましょう。肴を用意くださいますよう」と申せば、「ならば、帰りを待つことにしよう」と申して、馬を引き寄せ打ち乗り、東西へ別れ行きました。世の常のこととは思えど、これが最後の別れでした。さても、我らが討ち死にの後には、形見も送られよう。その時、男ならば、仏門に入るものを、女の身の悲しさは、それも叶わないこと、せめての道中より最後の言伝てさえもなかったと(姉が)恨むことは、疑いのないことでした。それを思えば、哀れでした。


続く


[PR]
by santalab | 2015-04-15 13:15 | 曽我物語

<< 「曽我物語」同じく相撲の事(そ...      「曽我物語」二宮の太郎に会ひし... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧