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Santa Lab's Blog


「曽我物語」三井寺大師の事(その2)

近き頃の事にや、園城寺をんじやうじに、智興ちかう太子たいしとて、めでたき上人しやうにん渡らせ給ひけり。顕密けんみつ有験うげん高僧かうそうとはまうせども、いまだ肉身を離れ給はざりけるゆゑに、重病ちやうびやうをかされて、苦痛悩乱なうらんわきまへ難し。すなはち、晴明せいめいを呼びて占はせけるに、「定業ぢやうごふ限りにて、助かり給ふ事あるべからず。ただし、おほき御弟子の中に、法恩ほふおんを重くし、命をかろくして、師の御命に代はるべき人ましまさば、まつり代へん」と申す。上人は、苦痛のままに、誰とはのたまはねども、御目を上げて、御弟子を見まはし給ふ。並び給ふ御弟子二百余人なれども、我代はらんとおほせらるる方一人もなし。目を見合はせ、赤面し給ふ色あらはれにけり。うたてかりし御事なり。




近い頃のことでしたか、園城寺(現在滋賀県大津市にある三井寺)に、智興太子(智興内供ないぐ。平安時代初期の僧。内供は宮中の道場で天皇に奉仕し、御斎会の読師、または夜居を勤めた僧職)と申して、有徳の上人がおりました。顕密([密教以外の仏教と密教])有験([加持や祈禱の効き目効果がある僧])の高僧でしたが、肉身の身でしたので、重病に冒されて、苦痛悩乱([悩み苦しんで心が乱れること])に苦しみました。すぐに、晴明(安倍晴明)を呼んで占わせると、「定業([前世から定まっている善悪の業報])故、助かることはありません。ただし、多くいる弟子の中で、法恩([三宝=仏・法・僧。の恩])を大切とし、命を軽んじて、師の命に代わると申す人あれば、身代わりとなりましょう」と申しました。上人は、苦痛の中で、誰と申すことなく、目を上げて、弟子を見回しました。並び居る弟子は二百余人いましたが、わたしが身代わりになると申す者は一人もいませんでした。互いに目を見合わせて、恥ずかしそうに赤面する色が見えました。情けないことでした。


続く


by santalab | 2015-04-19 09:21 | 曽我物語

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