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「曽我物語」三井寺大師の事(その11)

これを見る人、晴明せいめい奇特きどくたふとき、証空しようくうの心ざしあり難さに、色々の袖絞るばかりなり。さて、証空の方よりは、けぶり立ちて、苦悩くなう忍び難かりしかば、年来頼み奉る絵像ゑざう不動明王ふどうみやうわうをにらみ奉り、「我、二なき命を召し取りて、かばね壇上だんじやうに留む。正念しやうねんぢゆうして、安養浄刹あんやうじやうせつに迎へ取り給へ。知我心者ちがしんしや、即身成仏じやうぶつ、誤り給ふな」と、一心のぐわんをなしければ、明王みやうわうあはれとや思しけん。絵像ゑざうの御まなこより、くれなゐの御涙はらはらと流させ給ひて、「なんぢたふとくも法恩ほふおんを重くして、一人の親を振り捨て、めいに代はる心ざし、報じても余りあり。我また、如何でか汝が命に代はらざるべき。行者ぎやうじやを助けん。かたいしゆくの誓ひは、地蔵ぢざう薩たに限らず。受くる苦悩くなうを見よ」と、あらたに霊験あらはれければ、明王みやうわうの御頂きより、猛火みやうくわふすぼり出で、五体を包め給ふ。尊しとも、忝しとも言ひ難し。




これを見る人は、晴明の奇特([不思議])な力、証空の師への思いの深さに、色々の袖を絞るばかりでした。そして、証空の方よりは、煙立ち、苦悩は堪え難いものでした、証空は年来頼みにしていた絵像の不動明王をじっと見つめて、「わたしの、二つない命を召し取り、屍を壇上に留めよ。正念([雑念を去った安らかな心])とともに、安養浄刹([阿弥陀仏の浄土。極楽浄土])に迎え給へ。知我心者、即身成仏(『稽首聖無動尊秘密陀羅尼経けいしゆしようむどうそんひみつだらにきやう』の文らしい)、誤りなきよう」と、一心([唯一絶対の心])の願を立てました、不動明王は、哀れと思ったのでしょうか。絵像の眼より、紅の涙([嘆き悲しんで出す涙])をはらはらと流して、「お前は、ありがたいことに法恩([三宝=仏・法・僧。の恩])を大事と思い、ただ一人の親を振り捨て、命に代えようとする心ざしに、報いることはできまい。我もまた、何としてもお前の命に代わろうと思う。行者を助けたいのだ。かたいしゆく(我代受苦?)の誓いは、地蔵薩た(地蔵菩薩)だけではない。我が受ける苦悩を見よ」と申すと、あらたかな霊験が顕れました、不動明王の頭の頂きより、猛火が出て、五体を包み込みました。ありがたいとも、畏れ多いとも言い難いものでした。


続く


by santalab | 2015-04-19 16:03 | 曽我物語

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