母聞きて、「老いたる自ら、会はぬ教へのむつかくして、腹をも裂きて、死に失せよと。汝も、母と見ず、わらはも、子とも思はぬまで」とて、障子荒らかに立て給ふ。只今果てずは、永劫を経るとも、叶ふまじければ、五朗打ちふてて、
母はこれを聞いて、「老いたるこの母が、会わぬと申すのが気にくわぬと、腹を裂いて、死に失せよと申すのか。お前も、母と思わず、わたしも、子とも思わぬまでのこと」と申して、障子を荒らかに立ててしまいました。この機会に再会を果たさずば、永劫を経るとも、叶うはずもないと思えば、五朗(曽我時致)は意地になりました、
(続く)