人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「曽我物語」李将軍が事(その7)

今の世に、石竹せきちくと言ふ草、かふりよくが射ける矢なりとぞまうし伝へたる。されば、弓取りの子は、七歳になれば、親のかたきを討つとは、この心なり。心ざしに依り、石にも矢の立ちさうらふぞや。この心を歌にも詠みけるとぞ、

虎と見て 射る矢の石に 立つものを など我がこひの 通らざるべき」。

十郎じふらう聞きて、「や、殿、歌は然様さやうなりとも、祐成すけなりに遭ひての物語、『など我がかたき討たであるべき』と語れかし」。「にや、をりによる歌物語、悪しくまうして思ゆるなり。歌はともあれ、かくもあれ、この度は、敵討たん事安かるべし。老少不定らうせうふぢやうの習ひなれば、我らは、悪霊あくりやうとも成りて、取るべきにや」とたはぶれて、鞭を打ちてぞ、急ぎける。




今の世に、石竹([ナデシコ科の多年草])と言う草ですが、かふりよくが射た矢だと伝えられています。つまり、弓取りの子は、七歳になれば、親の敵を討つと申すは、この心なのです。心ざしに依り、石にも矢が立つのです。この心を歌にも詠んでおります、

虎と思い射た矢は石にも立つといいます。どうして我が願いが叶わないことがありましょう」。

十郎(曽我祐成すけなり)はこれを聞いて、「なるほど、殿よ、歌はそうであるとしても、この祐成には、『どうして我が敵を討つことができないことがあろうや』と語るべきであったな」。「そうでしたね、今話した歌物語ですが、覚え違いをしているようです。歌はどうであれ、いずれにせよ、この度は、敵を討つことは間違いありません。老少不定([人間の寿命がいつ尽きるかは、老若にかかわりなく、老人が先に死に、若者が後から死ぬとは限らないこと])の世の中です、我らは、悪霊にもなって、敵を取りましょうぞ」と冗談を言い合いながら、馬に鞭打って、先を急ぎました。


続く


by santalab | 2015-04-25 18:09 | 曽我物語

<< 「曽我物語」河津が討たれし事(...      「曽我物語」李将軍が事(その6) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧