人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「曽我物語」河津が討たれし事(その4)

伊東は、しかる古兵ふるつはものにて、敵に二つの矢を射させじと、大事の手にもてなし、馬手めてあぶみに下り下がり、むまを小楯に取り、「山賊やまだちありや。先陣せんぢんかへせ、後陣は進め」と呼ばはりければ、先陣・後陣、我劣らじと進めども、所しも悪所なれば、馬のさくりを辿たどるほどに、二人のかたきは逃げ延びぬ。くまもなく待ちけれども、案内者にて、思はぬ茂み、道を変へ、大見庄おほみのしやうにぞ入りにける。あやふかりし命なり。伊東は、河津かはず三郎さぶらうが伏したる所に立ち寄りて、「手は大事なるか」と問ひけれども、音もせず。押し動かして、矢を荒く抜きければ、いよいよ前後も知らざりけり。




伊東(伊東祐親すけちか)は、名のある古兵でしたので、敵に二の矢を射させまいと、用心して、馬手([右手])の鐙に身を伏せて、馬を小楯に取り、「山賊がおるようだ。先陣は返せ、後陣は進め」と叫びました、先陣・後陣とも、我劣らじと進みましたが、悪所でしたので、ならばと、馬のさくり([粒の細かい砂や雪などを踏んだり掘ったりするときの音や、その様を表す語])をたどっているうちに、二人の敵は逃げ延びてしまいまぢた。隈なく敵が現れるのを待ち構えましたが、案内者でしたので、思いもしない茂みを通り、道を変えて、大見庄に帰りました。危うい命でした。伊東(祐親)は、河津三郎(河津祐泰すけやす)が伏した場所に立ち寄ると、「疵は大事か」と訊ねましたが、返事はありませんでした。祐親は祐泰に体を少し動かして、矢を荒く抜くと、祐泰はますます前後不覚となりました。


続く


by santalab | 2015-04-28 07:29 | 曽我物語

<< 「曽我物語」河津が討たれし事(...      「曽我物語」河津が討たれし事(... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧