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「曽我物語」河津が討たれし事(その8)

兄は、死したる父がかほをつくづくとまぼりて、わつと泣きしが、涙を抑へて、「いつか大人しく成りて、父の仇の首斬りて、人々に見せまゐらせん」と、泣きしかば、知るも知らぬも押し並べて、袖を絞らぬ人はなし。なほも、名残りを慕ひ兼ね、三日までぞ置きたりける。黄泉くわうせん幽冥いうめいの道は、一度ひとたび去りて、二度ふたたびかへらぬ習ひなれば、力及ばず、泣く泣く送り出だし、ゆふべのけぶりと成しにけり。女房にようばう、一つ煙とならんと、悲しみけり。




兄(一萬)は、死んだ父(河津祐泰すけやす)の顔をじっと見つめて、声を上げて泣いていましたが、涙を抑えて、「いつか大人になって、父の仇の首を斬り、人々に見せます」と、泣いたので、一萬をよく知る者そうでない者も、袖を絞らぬ人はいませんでした。なおも、名残りを惜しんで、三日間留め置きました。黄泉幽冥([冥土])の道へ赴いて、一度この世を去れば、二度と戻れないものでしたので、仕方なく、泣く泣く送り出し、夕べの煙となりました。妻は、一つ煙となりたいと、悲しみました。


続く


by santalab | 2015-05-02 07:45 | 曽我物語

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