しかれば、縁に依りて、仏果を得る事を思へば、昔、仏性国に、血の雨降りて、国土紅なり。帝、大きに驚かせ給ひて、博士を召して、御尋ねありければ、占形を引き、申しけるは、「今宵、不思議の子を生む者あり。尋ね出だして、遠き島に捨てらるべし」と申しければ、舎衛城の中に、その夜、産したる者、千余人なり。その中より選び出だして、口より焔出づるを生みたる者あり。すなはち、これを人蟒とぞ名付けける。これ、不思議の者とて、官人に仰せ付けて、遠島に捨てけり。
このように、縁によって、仏果を得ることを思えば、昔、仏性国に、血の雨が降り、国土は紅に染まりました。帝は、たいそう驚いて、博士を呼んで、訳を訊ねると、占形([亀の甲・鹿の骨などを焼いて占うときに現れる形])を引き、申すには、「今宵、不思議の子を生む者がおります。探し出して、遠島にお捨てになられますよう」と申しました、舎衛城([古代インドのコーサラ国にあった首都 ])の中に、その夜、産をする者が、千余人いました。その中より探し出して、口より焔を出す子を生む者がいました。すぐさま、この子を人蟒([蟒]=[巨大なヘビの呼称])と名付けられました。これを、不思議の者と、官人に命じて、遠島に捨てさせました。
(続く)