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「曽我物語」泰山府君の事(その1)

斯様かやうの事を以つて、昔を思ふに、大国に大王だいわうあり。楼閣を好き給ひて、明け暮れ、宮殿くうでんを造り給ふ。中にも、上かう殿とかうして、うつばりは、金銀なり。軒に、珠玉しゆぎよく瓔珞ようらくげ、壁には、しやうれの華鬘けまんを付け、内には、瑠璃るり天蓋てんがひを提げ、四方しはうに、瑪瑙めなうはたを吊り、庭には、珊瑚さんご琥珀くはくを敷き満て、吹く風、降る雨の便りに、沈麝ちんじやにほひにたたゑゑり。山をきては、ちんを構へ、池を掘りては、船を浮かべ、みづに遊べる鴛鴦ゑんわうこゑ、偏へに浄土じやうど荘厳しやうごんに同じ。人民にんみんこぞりて囲繞いねうす。仏菩薩ぶつぼさつ影向ようがうも、これにはしかじとぞ見えし。




これをもって、昔を思えば、大国に大王がいました。楼閣を好んで、明け暮れに、宮殿を造りました。中でも、上かう殿(上高殿?)と名付けた宮殿がありました、梁([建物の水平短径方向に架けられ、床や屋根などの荷重を柱に伝える材])は金銀で出来ていました。軒には、珠玉・瓔珞([寺院内の宝華状の荘厳])を吊り下げ、壁には、しやうれ(シャコ=シャコ貝。仏教では七宝の一つ?)の華鬘([仏堂内陣の欄間などにかける荘厳具])を付け、内には、瑠璃([ガラス])の天蓋([仏像などの上方にかざしたり、吊ったりする絹張りの笠])を提げ、四方には、瑪瑙([メノウ])の幡([幢幡どうばん]=[仏堂に飾る旗。竿柱に、長いはくを垂れ下げたもの])を吊り、庭には、珊瑚・琥珀([植物の樹脂が化石となったもの])を敷き詰め、吹く風、降る雨毎に、沈麝(沈香=ジンチョウゲ科の生木または古木を土中に埋め、腐敗させて製したもの。と麝香=ジャコウジカの雄の麝香腺分泌物を乾燥したもの)の匂いを漂わせました。山を築いて、亭([屋根だけで壁のない休息所。あずまや])を構え、池を掘って、船を浮かべ、水に遊ぶ鴛鴦([オシドリ])の声は、まったく浄土([極楽浄土])の荘厳([重々しく、威厳があって気高い様])と同じでした。人民は挙って囲繞([まわりを取り囲むこと])しました。仏菩薩の影向([神仏が仮の姿をとって現れること])でさえ、これには過ぎないと思われました。


続く


by santalab | 2015-05-10 07:34 | 曽我物語

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