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「曽我物語」若君の御事(その1)

すけ殿、喜び思し召して、御名をば、千鶴せんづる御前とぞ付け給ひける。つらつら往事わうじ思ふに、旧主きうしゆが住まひし、古風のかうばしき国なれども、勅勘をかうむりて、習はぬひなの住まひの心地ぞありつるに、この者出で来たる嬉しさよ、十五にならば、秩父・足利の人々、三浦・鎌倉・小山をやま・宇都宮あひ語らひ、平家に掛け合はせ、頼朝が果報くわほうのほどを試さんと、もてなし思ひかしづき給ふ。




佐殿(源頼朝)は、よろこんで、名を、千鶴御前と付けました。よくよく当時を思い返せば、旧主(源義朝よしとも。坂東源氏)が住んだ、懐かしい国ではありましたが、勅勘を被り、馴れぬ鄙([田舎])住まいの寂しさを覚えていましたが、この子が生まれたうれしさに、十五になれば、秩父・足利の人々、三浦・鎌倉・小山・宇都宮の人々を味方に付け、平家と争い、この頼朝の果報のほどを試そうと、大事にしました。


続く


by santalab | 2015-05-16 08:36 | 曽我物語

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