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「曽我物語」曽我にて追善の事(その2)

ややありて、息の下にてくどきけるは、「まことに凡夫ぼんぶの身ほどはかなき事はなし。この小袖を請ひ、永き世までの形見と思ひて、時折節をりふしこそあるに、二人連れて来たり請ひける物を知らずして、かへせと言ひけむ悔しさよ。五朗ごらうも、限りと思ひてや、この度、強く言ひけるぞや。幾程なきものゆゑに、不孝ふけうして、年来添はざりける、悲しさよ。なほも、心強く許さざりせば、一目も見ざらまし。久しく添はざりしに、めづらしくも、頼もしくも思えしものを、責めて三日とも打ち添はで、名残りしさよ。なつかしかりつる面影を、いつの世にかはあひ見ん」とて、こゑを惜しまず泣きたり。如何なるしづ、賎のに至るまで、涙を流さぬはなかりけり。二宮の女房にようばうを始めとして、親しき人々馳せ集まりて、泣き悲しむ事、なのめならず。




しばらくして、息の下で訴え申すには、「本当に凡夫の身ほどはかないものはありません。わたしの小袖を、永世までもの形見と思って、わざわざ、二人連れて訪ねて来て、形見にと請うたことも知らずに、返せと申したのが悔やまれます。五朗(曽我時致ときむね)も、限りと思って、この度は、強く言ったのでしょう。心の未熟さ故、勘当して、年来そばに近付けなかったことが、悲しい。もしも、意地を張り許すことがなければ、一目も見なかったことでしょう。長く見なかったのに、なぜかしら、頼もしく思えました、せめても三日ともそばにいることはありませんでした、名残り惜しくて仕方ありません。なつかしいあの面影を、いつの世にかまた見たい」と申して、声を惜しまず泣きました。賎男、賎女にいたるまで、涙を流さぬ者はいませんでした。二宮の女房(曽我兄弟の姉)をはじめ、親しい人々が馳せ集まり、泣き悲しむこと、尋常ではありませんでした。


続く


by santalab | 2015-05-24 18:33 | 曽我物語

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