藤九郎盛長は、これを賜はりて、つくづく思ひけるは、当腹どもは、事の外悪女の聞こえあり、君思し召し遂げん事あるべからず、北条にさへ、御仲違はせ給ひては、いづ方に御入りあるべき、果報こそ、劣り奉るとも、手跡は、如何でか劣り奉るべきとて、御文を二十一の方へとぞ書き替へける。さて、少将の局して、参らせたりけり。姫君御覧じて、思し召し合はする事あり、この暁、白き鳩一つ飛び来たりて、口より金の箱に文を入れて吹き出だし、わらはが膝の上に置き、虚空に飛び去りぬ、開きて見れば、佐殿の御文なり、急ぎ箱に納むると思へば、夢なり、今現に文見る事、不思議さよと思し召して、打ち置きぬ。
藤九郎盛長(安達盛長)は、文を賜わり、よくよく考えました、当腹([今の妻の腹から生まれたこと])どもは、意に反して悪女の噂があり、君(源頼朝)が願いを叶えることはできまい、北条にさえ、仲違いされては、居場所もない、果報は、劣るとも、手跡は、劣るものではあるまいと、文を二十一の方(北条政子)へと書き替えました。そして、少将の局を遣って、文を参らせました。姫君は文を見て、思い合わせることがありました、この明け方、白い鳩が一羽飛んで来て、口から金の箱に文が入ったものを吹き出し、わたしの膝の上に置き、空に飛び去りました、文を開いて見れば、佐殿(源頼朝)からの文でした、急ぎ箱に納めると思えば、夢でしたが、今現に文を見て、不思議なことと思い、文を置きました。
(続く)