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「曽我物語」酒の事(その1)

また、酒は、忘憂ばうゆうの徳あり。然るに依り、数の異名いみやうさうらふ。中にも、「三木」とまうす事は、昔、漢の明帝めいていの時、三年旱魃かんばつしければ、みづゑて、人民おほく死す。帝、おほきに歎き給ひて、天に祈り給へども、しるしなし。いかがせんと悲しみ給ひける。その国のかたはらに、石祚せきそと言ふ賎しきたみあり。彼がいへそのに、桑の木三本ありけるに、水鳥みづとり、常に下りて遊ぶ。主怪しみて、行きて見れば、かの木のうろに、竹の葉おほへるものあり。取り退けて見るに、みづなり。舐めて見れば、美酒なり。すなはち、これを取りて、国王こくわうに捧ぐ。しかれば、一度口に付くれば、七日ゑを忘るる徳あり。帝、感じ思し召して、水鳥の落とし置きたる羽を取りて、餓死にの口に注き給へば、死人ことごとくよみがへり、餓ゑたる者は、力を得、めでたしとも、言ふ計りなし。すなはち、石祚を召して、一国のかみに任ず。桑の木三本より出で来たればとて、「三木」とまうすなり。




また、酒には、忘憂([憂いを忘れること])の徳がございます。そういう訳で、多くの異名があります。中でも、「三木」(御酒)と申すのは、昔、漢の明帝(後漢の第二代皇帝)の時、三年間旱魃がございました、水に餓えて、人民が多く死にました。帝は、たいそう嘆いて、天に祈りましたが、験はありませんでした。帝はどうしたものかと悲しみました。その国の外れに、石祚という身分卑しい民がいました。彼の家の庭に、桑の木が三本ありました、水鳥が、常に下りて遊んでいました。主は不思議に思って、行って見れば、かの木の洞に、竹の葉に覆われたとろこがありました。取り退けて見れば、水がありました。舐めてみれば、美酒でした。すぐに、これを持って、国王に献上しました。この酒を、一度口に含めば、七日餓えを忘れる徳がありました。帝は、感嘆して、水鳥が落とした羽を取って、餓死にした民の口に注ぐと、死人は残らずよみがえり、餓えた者は、元気を取り戻して、めでたいと、言うほかありませんでした。すぐに石祚を呼んで、一国の国主に任じました。桑の木三本より出で来たので、「三木」と申すのです。


続く


by santalab | 2015-06-12 07:48 | 曽我物語

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