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「曽我物語」母の勘当蒙る事(その5)

五朗ごらう物ごしに聞きて、泣きたりけるが、兄の方にかへりて、まうしけるは、「ただ今の母のおほせられし事ども、一々そのいはれありて思えさうらふ。死し給へる父を悲しみて、孝養けうやうを致さんとすれば、生きてまします母の不孝ふけうかうぶる事、これまことにひたうのゆゑなり。身の罪のほどこそ、知られて候へ。あまねく人の知らざる先に、髪切り候はん」と申しければ、十郎じふらう言ひけるは、「母の御勘当かんだうは、予ねてより思ひまうけし事なり。さればとて、昨日きのふをとこに成りて、今日けふまた入道にふだうするに及およばず。人こそ数多あまた知らずとも、先づ北条ほうでう殿の思はれん事も、軽々かろがろしし。かつうは、物苦はしきにも似たり。ししやうの事にてはあらじ。いざや、いづ方へも行きて、慰みさうらはん」とて、打ち連れてぞ、出でにける。




五朗(曽我時致ときむね)は物ごしに聞いて、泣いていましたが、兄(曽我祐成すけなり)の方に帰って、申すには、「ただ今の母の申されたこと、一々その通りと思えるのです。亡くなった父(河津祐泰すけやす)を悲しんで、孝養を致そうとすれば、生きておられる母の不孝を被ること、これまことにひたう(貧道ひんだう=仏道修行の未熟な境涯)のためです。身の罪のほどが、知らされる思いです。すべての人に知られぬ前に、髪を剃りましょう」と申せば、十郎が申すには、「母の勘当は、かねてより分かっていたことではないか。ならばと、昨日男になって、今日また入道することはない。人は多く知らずとも、北条殿(北条時政ときまさ)が悲しむことであろう、軽々しく決めることではない。また、今さらに出家するのは心苦しかろう。勘当はししやう(始終=一生)のことではあるまい。さあ、どこへも行き、心を慰めてはどうだ」と申して、打ち連れて、出て行きました。


続く


by santalab | 2015-06-13 10:51 | 曽我物語

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