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「曽我物語」五朗、女に情け懸けし事(その6)

その頃、源太げんだ左衛門さゑもんは、歌道かだうには、定家ていか家隆かりうなりともと思ひしなり。さても、この歌の面白さよと思ひ染めて、景季かげすゑ耳馴れけり。余所のことわざなど、たはぶれければ、をんな引き籠もり、五朗ごらう一人にも限らず、出仕を止めけり。これをば知らで、五朗ごらうある時、かの許に行き、たづねけれども、会はざりけり。何によりけるやと危ふく、友の遊君いうくんに問ひければ、「梶原かぢはら源太殿の取りて置かれ、余の方へは思ひも寄らず」と言ひければ、五朗聞きて、流れを断つる遊び者、頼むべきにはあらねども、世にある身ならば、源太には思ひかへられじと、身一つのやうに思ひけり。「貧は諸道しよだうの妨げ」とは、面白かりける言葉かな、人をも、世をも恨むべからずとて、この歌を詠み置きて、出でぬ。

あふと見る 夢路にとまる 宿もがな つらき言葉に またも帰らん

と書きて、引き結びて置きたりけり。




その頃、源太左衛門(梶原景季かげすゑ)は、歌道では、定家(藤原定家さだいへ)・家隆(藤原家隆いへたか)とも思っていました。そして、この女の歌の面白さに、景季は度々通うようになりました。他の男を困らせているのではないかと、冗談半分に申せば、女は引き籠もり、五朗一人にも限らず、出仕を止めました。これを知らずに、五朗(曽我時致ときむね)がある時、女の許に行き、声をかけましたが、会いませんでした。どうしたことかと怪しんで、友の遊君([遊女])に訊ねると、「梶原源太殿(景季)のお気に入りですので、他の人には会いません」と答えたので、五朗はこれを聞いて、流れを断つ(仮初めの)遊び者、頼むべき者ではないにせよ、同じ世にある身ならば、源太に心を移したかと、惨めに思えました。「貧は諸道の妨げ」とは、こういうことであろう、人をも、世も恨むべからずと、この歌を詠み置いて、出て行きました。

夢路にそなたと会える宿があればよいものを。そっけない返事に、今は帰るほかないが。

と書いて、引き結び置きました。


続く


by santalab | 2015-06-17 10:42 | 曽我物語

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