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「曽我物語」五朗が情け懸けし女出家の事(その3)

源太げんだ左衛門さゑもん景季かげすゑは、この事を聞きて、本よりこのをんなの心様、尋常じんじやうにして、歌の道にもやさし。今は、曽我の五朗ごらうこそかたきなれ。行き遭はん所にて、本意を達せんと思ひければ、さてこそ、平塚ひらつかの宿までは追ひたりけれ。その時、景季いきほひ、また並ぶ人やあるべきなりしかども、富士野裾野にては、まことにをとこがましくも見えざりしぞかし。然れば、「人は世にありとも、よくよく思慮あるべきものを」とて、皆人みなひとまうし合はれけり。五朗も、この事を伝へ聞きて、やさしくも、また心許なくもぞ思ひける。これに依りて、いよいよ身を身とも、世を世とも知らで、思ふ事のみ急ぎけるは、ことわり過ぎてぞ、あはれなる。




源太左衛門景季(梶原景季)は、この事を聞いて、本よりこの女は情けに、優れて、歌の道にも通じていた。今は、曽我五朗(曽我時致ときむね)こそ敵である。行き遭う所で、本意を遂げようと、思えばこそ、平塚の宿(現神奈川県平塚市)まで追い駆けたのでした。その時の、景季の勢いは、ほかに並ぶ人があるとも思えませんでしたが、富士野裾野での振る舞いは、男らしくは思えませんでした。ならば、「人は世にあっても、よくよく思慮あるべきものを」と、皆人は申し合いました。五朗(時致)もまた、女の出家を伝え聞いて、健気ながら、心許なく思いました。これにより、ますます身を身とも、世を世とも思わず、望みのみ急がれるのでした、道理を過ぎて、哀れなことでした。


続く


by santalab | 2015-06-18 12:33 | 曽我物語

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