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「曽我物語」呉越の戦ひの事(その12)

大夫種たいふしゆ喜びて、兜を脱ぎ、旗を巻き、会稽山くわいけいざんより下り、「越王ゑつわうの勢、既に尽きて、呉の軍門に下る」と呼ばはりければ、呉のつはもの三十万騎さんじふまんぎ、勝ちどきを作りて、万歳ばんぜいの喜びをぞ唱へける。大夫種は、すなはち、近衛このゑ門に入りて、「慎んで、呉上ごじやう将軍しやうぐんのけしゆつことに属す」と言ひて、膝行しつかう頓首とんしゆして、太宰喜否たいさいひまへにひざまづく。太宰喜否あはれに思ひ、顔色がんしよく解けて、「越王ゑつわうの命をばまうし宥むべし」とて、大夫種を連れて、呉王ごわうぢんに渡り、この由かくと言ふ。




大夫種はよろこんで、兜を脱ぎ、旗を巻いて、会稽山より下り、「越王(勾踐こうせん)の勢は、すでに尽き、呉の軍門に下る」と大声で叫ぶと、呉の兵三十万騎は、勝ち鬨を上げて、万歳([いつまでも生きること、栄えること。めでたいこと])をよろこび合いました。大夫種は、すぐに、近衛門に入り、「慎んで、呉上将軍のけしゆつこと(下執事)に属す」と申して、膝行([神前や貴人の前で、ひざまずいて進退すること])頓首([古く中国の礼式で、頭を地につくように下げてうやうやしく礼をするもの])して、太宰喜否の前にひざまずきました。太宰喜否は哀れに思い、顔色を和らげて、「越王(勾踐)の命を救うよう申し上げよう」と申して、大夫種を連れて、呉王(夫差ふさ)の陣に渡り、これを申し上げました。


続く


by santalab | 2015-06-21 11:42 | 曽我物語

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