勾踐、これを聞き給ひ、「我、会稽山に囲まれ、既に誅せらるべかりしを、今まで助け置かれて、天下の赦を待つ事、偏へに君王の厚恩なり。今、我、これを以つて報ぜずは、いつの日をか期せん」とて、秘かに石淋の取りて舐め、その味はひを医師に告げければ、医師即ち味はひを聞きて、療治を加ふるに、呉王の病ひ、忽ちに平癒す。呉王、大きに喜びて、「人、心あり、死を助けずは、如何でか今謝心あらん」とて、越王を土の籠より出だし、剰へ越の国を与へ、「本国に返し給ふべし」と宣下せられけり。
勾踐は、これを聞いて、「わたしは、会稽山で包囲されて、誅せられるところでしたが、今まで助け置かれて、天下の赦しを待つ身です、ひとえに君王(夫差)の厚恩あってのことです。今、わたしが、これを以って報いなければ、いったいいつ報いるべき」と申して、秘かに石淋([結石])を舐め、その味を医師に知らせると、医師はすぐに味を聞いて、治療しました、呉王(夫差)の病いは、たちまち平癒しました。呉王は、たいそうよろこんで、「勾踐は、心ある者よ、死を助けなければ、謝心を示せぬ」と申して、越王(勾踐)を土籠より出して、その上越国を与え、「本国に返す」と宣下しました。
(続く)