王御覧じて、押し止め置き給ふ。かんはく、安からずに思ひけれども、適はず。女も、王宮の住まひ、物憂くて、ただ男の事のみ、思ひ歎きければ、王、驚き思し召す。時の関白りやうはくと言ふ者を召し、「この事いかがせん」と問ひ給ふ。「然らば、彼が男のかんはくを、片輪になして見せ給へ。思ひは冷めぬべし」と申したりければ、「然るべし」とて、耳鼻を削ぎ、口を裂きて見せ給ふ。女、我故、斯かる憂き目に遭ふよと歎き、いよいよ伏し沈み悲しみければ、また臣下に問ひ給ふ。「然らば、かんはくを殺して見せ給へ」と申しければ、やがて、深き淵に沈められけり。
王は女を見て、女を王宮に置きました。かんはく(韓憑?)は、安からず思いましたが、どうすることもできませんでした。女は、王宮での暮らしを、悲しんで、ただ男のことばかり、思い嘆くので、王は、驚きました。時の関白りやうはく(梁伯)と言う者を召し、「どうしたものか」と訊ねました。「ならば、男のかんはくを、片輪にしてはどうでしょう。きっと思いは冷めることでしょう」と申せば、「ならば」と申して、耳鼻を削ぎ、口を裂きました。女は、わたしのために、このような憂き目に遭ったのだと嘆き、ますます伏し沈み悲しんだので、また臣下に訊ねました。「ならば、かんはくを殺してしまいなさいませ」と申せば、やがて、深き淵に沈めました。
(続く)