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「曽我物語」館館にて咎められし事(その4)

十郎じふらう、少しも騒がず、しづしづと立ちかへり、「これは、更に苦しからぬ者にてさうらふ。庁南ちやうなん殿より北条ほうでう殿へ、大事の御物の具の候ふ、取りにまゐり候ふが、夜深かに候ふあひだ、人を連れて候へば、若き者にて、酒にひ候ひて、雑言ざふごんまうし候ふ。ただそれがしに御免候へ」と、打ち笑ひてぞ言ひたりける。御免と言ふに、勝つに乗り、「ればこそとよ、不審なり。その儀ならば、事安し。庁南殿へたづね申すべし。そのほど待ち給へ」とぞ怒りける。




十郎(曽我祐成すけなり)は、まったくあわてることなく、ゆっくり立ち返ると、「我らは、まったく怪しい者ではございません。庁南殿(長南重常しげつね?)より北条殿(北条時政ときまさ)へ、大事の物の具([武具])がございまして、取りに参りましたところ、夜深かのことでございますので、人を連れて参りましたが、若者故、酒に酔って、雑言([いろいろな悪口やでたらめな言い掛かり])を申したのです。わたしに免じてお許しください」と、打ち笑って申しました。警固の者どもはご免と言われて、勢い付いて、「そうかそうか、やはり怪しいぞ。そういうことならば、事は簡単。ればこそとよ、不審なり。庁南殿へ聞けば済むことよ。それまで待っておれ」と嚇しました。


続く


by santalab | 2015-07-13 19:05 | 曽我物語

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