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「曽我物語」浅間の御狩の事(その2)

曽我の五朗ごらう聞きて、兄にまうしけるは、「信濃の浅間を狩らるべきにて、近国のさぶらひに触れらさうらふ。あはれ、御供まうして、便宜びんぎを窺ひ候はばや。斯様かやうの所こそ、よき間もありぬべく候へ。思し召し立ち候へ」と申しければ、「いかがせん、信濃まで御供仕り候はば、我らが中に、むまの四五匹もありてこそ、思ひ立ため」と言ふ。「斯様かやうに思し召し候はば、この事、一期のあひだ、叶ふべからず。恐れ入りて候へども、悪しき御心得と存じ候ふ。君に仕へ、御恩かうむり、いみじき身にても候はば、むまをも引かせ、乗り替へをも具して、美々びびしく候ふべし。斯様かやうの事思ひ立つ身は、はぢをも思ふべからず、栄華えいぐわ名聞みやうもんは、世にありての事にて候ふ。ただ、蓑笠みのかさ粮料らうれう持ちたる者、四五人召し具し、姿を変へて、藁沓わらぐつ縛り履き、弓矢は事々し、太刀ばかりにて、雑人ざふにんに交はり、宿々にて、便宜びんぎを窺ふにはしくべからず。曽我には、三浦・北条ほうでうにて、いつもの如く遊ぶらんと思し召し候ひなん」とまうしければ、「しかるべし」とて、出でにけり。




曽我五朗(曽我時致ときむね)はこれを聞いて、兄(曽我祐成すけなり)に申すには、「信濃の浅間で狩りをすると、近国の侍に触れ回っております。なんとしても、お供申して、機会を窺いましょう。このような場所こそ、好機も訪れましょう。思い立たれますよう」と申せば、「どうすればよいものか、信濃までお供しようとすれば、我らに、馬の四五匹も必要ぞ、どうにもならぬ」と答えました。「そんなことを申していたならば、仇討ちなど、一期の間に、叶うべきもありません。恐れあることですが、悪しき心持ちです。君(源頼朝)に仕え、ご恩を蒙り、名を上げれば、馬も引かせ、乗り替えも具して、華やかしくおれましょう。仇討ちなど思い立つ者は、恥とも思わぬもの、栄華名聞([世間の評判])は、世にあってこそのことです。ただ、蓑笠・粮料([食料])を持つ者、四五人連れて、姿を変えて、藁沓縛り履き、弓矢は大仰です、太刀ばかりにて、雑人に交わり、宿々で、機会を窺うべきです。曽我では、三浦・北条で、いつものように遊んでいると思うことでしょう」と申せば、「分かった」と申して、曽我を出ました。


続く


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by santalab | 2015-07-15 08:15 | 曽我物語

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