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Santa Lab's Blog


「曽我物語」弁才天の御事(その3)

遙かの川のすゑに、れうかんと言ふ所に、きよはくと言ふ貧道ひんだう無縁の老人らうじんあり。明け暮れ、このかはうろくづすなどり、身命しんみやうを助かる者あり。折節をりふし、釣りするところへ、この箱流れ寄りたり。取り上げ、開きて見れば、かひごなり。何物の子やらんと思ひ、家に取りてかへり、妻にかくと言ふ。をんな、これを見て、「恐ろしや、如何なる物にかかへりなん。主もやうありてこそ捨てつらん。急ぎ元の川に入れよ」と言ふ。「ただ置きさうらへ。斯様かやうなる物には、不思議もこそあれ。たとひ僻事ひがことありとも、我らは、よはひ幾程あるべきならねば、様を見よ」とて、物に包み、暖かにして置きたりければ、程もなく、いつくしき男子なんしに孵りぬ。




遙かの川の下流、れうかんと言う所に、きよはくと言う貧道無縁([仏道修行の乏しいこと])の老人がいました。明け暮れ、この川の鱗([魚])を捕って、生計を立てていました。ちょうど、釣りするところへ、この箱が流れて来ました。箱を取り上げ、開いて見れば、卵が入っていました。何物の子かと思い、家に持って帰り、妻に話しました。女は、これを見て、「恐ろしい、どんな物が孵るのでしょう。主も訳あって捨てたに違いありません。急ぎ元の川に返しましょう」と言いました。老人は「そのまま置いておけ。このような物には、不思議なこともあるものじゃ。たとえ何も起こらなくとも、わしらは、余命幾程もないであろう、どうなるか見てみようではないか」と申して、物に包み、暖かくして置くことにしました、そしてほどなく、美しい男子が生まれました。


続く


by santalab | 2015-07-18 11:09 | 曽我物語

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