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「曽我物語」弁才天の御事(その21)

ここに、また始めたる土器かはらけ、虎がまへにぞ置きける。取り上げけるを、今一度と強ひられて、受けて持ちける。義盛よしもり、これを見て、「如何に御前、そのさかづき、いづ方へも思し召さん方へ、思ひ差しし給へ。これぞ、まことの心ならん」とありければ、七分に受けたるさかづきに、心を千々ちぢに使ひけり。和田に差し奉らん事、時の賞玩しやうくはんのいかんなし、されども、祐成すけなりの心恥づかしさよ、流れを断つる身なればとて、人を内に置きながら、座敷に出づるは、本意ならず、ましてや、この盃、義盛に差しなば、綺羅きらに愛でたりと思ひ給はんも口惜くちをし、祐成に差すならば、座敷に事起こりなん、かくあるべしと知るならば、始めより出でもせで、内にて如何にも成るべきを、再び思ふ悲しさよ、よしよし、これも前世ぜんぜの事、もし思はずの事あらば、和田のまへ下がりに差し給ふ刀こそ、わらはが物よ、ゆるていにもてなし、奪ひ取り、一かたな差し、とにもかくにもと思ひ定<めて、義盛一目、祐成一目、心を使ひ、案じけり。




そこへ、また盃が廻されて、虎御前の前に置かれました。受け取った盃ですが、もう一杯と強いられて、盃を受けて持ちました。義盛(和田義盛)は、これを見て、「どうするや御前、その盃を、どちらへも思う方に、思い差し([決めた相手に杯を回すこと])せよ。これぞ、そなたの本心ぞ」と申したので、虎御前は七分に受けた盃に、心は千々に乱れました。和田(義盛)に差せば、時の賞玩([大切にされること])は間違いなし、けれども、祐成(曽我祐成)にどう思われるかと思えば恥ずかしいこと、流れを断つ身なればと、人(祐成)を内に残して、座敷に出たのも、本意ではなし、ましてや、この盃を、義盛に差せば、綺羅([栄華をきわめること。権勢の盛んなこと])に惹かれたと思われて無念なこと、祐成に差せば、座敷に事が起こるやも、こうなることを知っていれば、はじめから座敷に出ずに、内におればよかったものを、つくづく悲しい身であることよ、仕方のないこと、これも前世の業と思うほかありません、もし思いもしないことが起これば、和田が前下がりに差した刀を、取り、支えるふりをして、奪い取り、一刀差し、どうにでもなりましょうと思い切り、義盛を一目、祐成を一目見ながら、あれこれ、案じました。


続く


by santalab | 2015-07-19 11:00 | 曽我物語

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