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「曽我物語」弁才天の御事(その23)

ここに、五朗ごらう時致ときむね、曽我にたりけるが、父の為に法華経ほけきやう読みて、本尊に向かひ、念誦ねんじゆしけるが、しきりに胸騒ぎしけり。心得ぬ今の胸騒ぎや、いかさま、祐成すけなり大磯おほいそへ越し給ひぬるが、東国の武士、富士野へ打ち出づる折節をりふしなり。流れの遊君いうくんゆゑ、事し出だし給ふにやと、心許なく思ひければ、帳台ちやうだいに走り入り、緋威ひをどしの腹巻取つて引き掛け、伊東重代の四尺六寸の赤銅しやくどう作りの太刀、十文字じふもんじに結び下げ、鞍置くべき暇なければ、膚背はだせ馬に打ち乗りて、二十余ちやうのその程、ただ一馬場に駆けとほし、門外もんぐわいを見渡せば、長者ちやうじやの門のほとり、鞍置き、馬一二百匹引つ立てたり。侍所さぶらひどころには、物の具の音しきりにして、只今、事出で来ぬとぞ見えける。入るべき所なくして、門の外をめぐり、日来、祐成すけなりに行き連れてとほりしかん小路に廻り、竹垣をくぐり、虎が居所ゐどころにこそ着きにけれ。




その頃、五朗時致(曽我時致)は、曽我にいましたが、父(河津祐泰すけやす)のために法華経を読みながら、本尊に向かい、念誦していました、しきりに胸騒ぎがしました。どうしたことか今の胸騒ぎは、まさか、祐成(曽我祐成)が大磯に向かったが、東国の武士も、富士野へ打ち出る頃ぞ。流れの遊君([遊女])のことで、事が起こったのではあるまいかと、心配になって、帳台([寝所])に走り入り、緋威([緋色に染めた革や組紐などで威した鎧。])の腹巻([鎧])を取って引き掛け、伊東重代の四尺六寸の赤銅作りの太刀を、十文字に結び下げ、鞍を置く暇もなければ、膚背馬に打ち乗って、二十余町の間、ただ一馬場に駆けて、門外を見渡せば、長者の門の辺には、鞍を置いた、馬が二百匹引つ立ててありました。侍所([侍の詰所])には、物の具([武具])の音が絶え間なく聞こえ、只今、事が起こったと思えました。五朗(時致)は入る所なく、門の外を廻り、いつも、祐成とともに通るかん小路(間小路?)に廻り、竹垣をくぐり、虎御前の居場所に着きました。


続く


by santalab | 2015-07-19 11:10 | 曽我物語

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