衣食の類また同じ。藤の衣・麻の襖、得るに隨ひて、肌を隠し、野辺の茅花、峯の木の実、わづかに命を継ぐばかりなり。人に交はらざれば、姿を恥づる悔いもなし。糧乏しければ、おろそかなる報ひを甘くす。
衣食にしてもまた同じことです。藤の衣([藤づるの皮の繊維で織った粗末な衣])麻の襖([袷=裏を付けた衣。または綿入れの衣])を、得ては、肌を隠し、野辺の茅花([チガヤの花穂。食べられる])、峯の木の実で、わずかに命を継ぐばかりです。人と交わることもなければ、その姿を恥じることもありません。糧は乏しく、無精の報いはさほどのものではありません。
(続く)