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「栄華物語」蛛のふるまひ(その2)

御葬送の夜、物思えず惑ひ合ひたる心にも、さかしらに、うへ

うつせみの からを頼むに あらねども またこはいかに 別れはつらん

といみじう思し惑はる。そのおはしましける御帳の内に蜘蛛の巣を掻きたりければ、
別れにし 人はくべくも あらなくに いかにふるまふ ささがにぞこは

御返し、宰相の君、
君くべき ふるまひならぬ ささがには かきのみたゆる 心地こそすれ




葬送の夜、女房どもが物も思えず途方にくれる中に、気丈にも、上(源師房もろふさの娘、源妧子げんし)は、

この世を去った人を頼むことはできませんが、あまりにも突然のことに、あの人が亡くなったことがまだ信じられなくて。

と心の整理がつかないようでした。大将殿(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)の部屋の帳の内に、蜘蛛の巣がありました、
この世を去った人が再び帰ってくる(来べく)ことはありませんのに、何を思ってささがに([蜘蛛])は巣を張るのでしょう。

返し、宰相の君、
君(藤原通房)が戻ってこないと知った時、ささがに([蜘蛛])の心もきっと糸が切れたような気持ちになることでしょう。


続く


by santalab | 2015-09-02 10:59 | 栄花物語

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