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Santa Lab's Blog


「曽我物語」館回りの事(その7)

酒を八分に受けて、思ひけるは、憎き敵の広言くわうげんかな、身不肖ふせうなり、何事かあるべきと、思ひこなし、初対面に散々に言ひつるこそ、奇怪きくわいなれ、この君どもが耳こそ、とう八箇国のさぶらひの聞くところ、日来は親の敵、只今は日のかたきあをに衣を重ねても、逃すべきにあらず、あはれ、受けたる盃、敵のおもてにいつ掛けて、一刀刺し、如何にもならばやと、千度ちたび百度ももたび進めども、心を変へて思ふやう、待てしばし、兄弟きやうだいと言ひながら、祐成すけなり時致ときむねは、父の敵に心ざし深くして、一所ひとところにてとにもかくにもと契りしに、心逸りのままに、祐成如何にもなるならば、五朗ごらう空しく搦められ、恨みん事こそ不便ふびんなれ、ここはこらふるところと思ひしづめて、止まりしは、情け深くぞ思えける。




酒を八分に受けて、思うには、憎き敵の広言([無責任に大きなことを言い散らすこと])よ、身不肖([取るに足りないこと])だと、何事かあるものかと、思い、初対面の我に散々に言い放つとは、奇怪([けしからぬこと])なことよ、この君ども(手越少将と黄瀬川の亀鶴)の耳こそ、東八箇国の侍の話を聞いておろう、日来は親の敵、今は今日の敵、襖([綿入りの衣])に衣を重ねても(返す返す?)、逃すことはできぬ、ああ、受けたこの盃を、敵(工藤祐経すけつね)の顔に掛けて、一刀刺し、如何にもなろうと、千度百度も逸りましたが、心を変えて思うには、しばし待て、兄弟とは言え、祐成(曽我祐成)・時致(曽我時致)は、父(河津祐泰すけやす)の敵に恨み深くして、一所でとにもかくにもと契ったのだ、心逸りのままに、この祐成が如何にもなれば、五朗(時致)も空しく搦められ、恨むことになれば哀れなことよ、ここは堪えるところと心を鎮めて、敵討ちを止まりました、情け深いことでした。


続く


by santalab | 2015-09-16 07:15 | 曽我物語

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