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「曽我物語」富士野の狩場への事(その6)

ここに、葛西の六郎ろくらう清重きよしげ、日の暮れ方に至るまで、鹿一かしらも留めずして、勢子せこに漏るる鹿もやと、茂み茂みに、目を懸けてまはりける折節をりふし弓手ゆんでの茂みより、鹿一かしら出で来たる。願ふところと見渡せば、矢頃に少し延びたり。あぶみに鞭を打ち添へて、下り様にぞ落としける。既に二三段切り違へて、弓打ち上げて、引かんとするところに、思はぬ岩石に馬を乗り掛けて、四足一つに立て兼ねて、わななきてこそ立ちたりけり。下ろすべきやうもなく、また上すべき所もなく、進退しんだいここにきはまれり。




ここに、葛西六郎清重(葛西清重。ただし清重の別名は三郎)は、日の暮れ方に至るまで、鹿を一頭も仕留めることはできず、勢子([狩猟の場で、鳥獣を追い出したり、他へ逃げるのを防いだりする役目の者人])から逃れた鹿もあるかと、繁み繁みに、目を懸けて駆け回っていましたが、弓手([左])の茂みより、鹿が一頭出て来ました。願うところと目を遣れば、矢頃に少し離れていました。鐙に鞭を打ち添えて、下りに鹿を追いました。二三度追いかけ、弓を上げて、矢を引こうとした時、思わずも崖に行き着きました、馬は足を止めて、わなないて跳ね上がりました。下りる足場もなく、また馬を戻すこともできませんでした、進退ここに極まりました。


続く


by santalab | 2015-09-24 09:18 | 曽我物語

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