Santa Lab's Blog


「増鏡」草枕(その21)

内には、大納言のまゐり給へると思して、例は、忍びたる事なれば、門の内へ車を引き入れて、対の妻より降りて参り給ふに、門より降り給ひぬ。怪しとは思ひながら、黄昏たそかれ時のたどたどしきほど、何の文目あやめも見え分かで、妻戸をはづして人の気色見ゆれば、何となくいぶかしき心地し給ひて、中門の廊に上り給へれば、例の馴れたる事にて、をかしきほどのわらは女房歩み出でて、気色ばかりを聞こゆるを、大臣おとどは覚えなきものから、をかしと思して、尻に付きて入り給ふほどに、宮も待ち聞こえ給ふと思しくて、御几帳きちやうに隠れて、何心なくうち向かひ聞こえ給へるに、大臣もこはいかにとは思せど、何くれとつきづきしう、日来の心ざしありつる由聞こえなし給ひて、いと浅ましう、一方ならぬ御思ひくははり給ひにけり。




殿の内では、大納言(西園寺実兼さねかね)が参ったと思いました、いつもなら、忍んでのことでしたので、門の内へ車を引き入れて、対屋の妻戸([寝殿造りで、殿舎の四隅に設けた両開きの板扉])で車を降りて入りましたが、この日は門で車から降りました。不思議に思いながら、黄昏時の薄暗い頃でしたので、誰とははっきり気付きませんでした、師忠もろただ(二条師忠)が妻戸を開けると女房たちの姿が見えたので、何とはなく怪しく思いながらも、中門の廊に上ると、いつものように、かわいらしい幼いほどの女房が歩み出て、挨拶したので、大臣(師忠)はどういうことかと思いながらも、興味を覚えて、女房の後に付いて殿に入ると、斎宮(後嵯峨天皇の第二皇女、愷子やすこ内親王)も待っていたように、几帳に隠れて、親しげに話されました、大臣(師忠)はこれはどういうことかと思いましたが、四方の話をしながら、日来の思いなど話されて、浅ましいほどに、思い引かれたのでございます。


続く


[PR]
by santalab | 2015-10-23 09:10 | 増鏡 | Comments(0)

<< 「増鏡」草枕(その23)      「増鏡」草枕(その22) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧