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「増鏡」烟の末々(その16)

院も内も、這ひ渡るほどの近さなれば、御宿直とのゐの人々など、日来よりも参りつどひて、御旅の雲井なれど、中々、いと顕証なり。北の対のつまなる紅梅の、いと面白く咲きたるが、院の御前より御覧じ遣らるるほどなれば、雅家まさいへの宰相の中将して、いと艶になよびたる薄様に書かせ給ひて、院の上、

色も香も 重ねてにほへ 梅の花 九重になる 宿のしるしに

とて、かの梅に結び付けさせらる。御かへし、弁の内侍うけたまはりて、申すべしと聞き侍りしを、なのめなりといふ事にて、大殿おとど、今出川より申されけるとかや。それも忘れ侍りぬるこそ口惜くちをしけれ。老いはかく憂きものにぞ侍るや。




院(第八十八代後嵯峨院)も内(第八十九代後深草天皇)も、這って渡れるほどの近さでしたので、宿直の女房など、日来よりも参られて、仮の雲井([皇居])ではございましたが、それはもう、九重([顕証]=[際立っている様])そのままでございました。北の対屋の妻戸([寝殿造りで、出入り口として建物の端に設けた両開きの板戸])近くの紅梅が、たいそう美しく咲いておりましたが、院の御前よりご覧になられるほど近くでございますれば、雅家の宰相中将(北畠雅家)を呼んで、とても艶やかでやわらかい薄様に書かせて、院の上(後嵯峨院)、

色も香も重ねて匂え梅の花よ、ここが九重([内裏])となる宿のしるしとして。

と詠んで、かの梅に結び付けさせました。返しを、弁内侍(後深草院弁内侍)が承り、申されることになりましたが、失礼であると、大殿(西園寺公相きんすけ?)が、今出川より申されたとか。それも忘れてしまいました残念なことでございます。老いとは悲しいものでございますよ。


続く


by santalab | 2015-11-04 08:49 | 増鏡

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