寄せ手これを見て、いよいよ近付く者もなかりける間、内より門の扉を推し開いて、「討つ手を承るほどの人達の、穢うも見へられ候ふ者かな。早やこれへ御入り候へ。我らが頭ども引出物に進らせん」と、恥しめてこそ立ちたりけれ。寄せ手ども敵にあくまで欺かれて、先陣五百余人馬を乗り放して、歩立ちに成り、喚いて庭へこみ入る。立て篭もる所の兵ども、とても遁れじと思ひ切つたる事なれば、いづくへか一足も引くべき。二十余人の者ども、大勢の中へ乱れ入つて、面も振らず切つて廻る。先駆けの寄せ手五百余人、散々に切り立てられて、門より外へさつと引く。されども寄せ手は大勢なれば、先陣引けば二陣喚て駆け入る。駆け入れば追ひ出だし、追ひ出だせば駆け入り、辰の刻の始めより午の刻の終りまで、火出づる程こそ戦ひけれ。
寄せ手はこれを見て、ますます近付く者もいませんでしたので、内より門の扉を押し開いて、「討つ手を任させるほどの人たちが、尻込みしてどうする。早くこちらへ入られよ。我らの首を引き出物に参らする」と、辱めました。寄せ手どもは敵に促されて、先陣五百余人が馬を乗り捨てて、歩立ちになり、喚きながら庭へなだれ込みました。立て籠もる兵どもは、とても逃れられぬと思い切っていましたので、一歩も引きませんでした。二十余人の者どもが、大勢の中へ乱れ入って、面も振らず切り廻りました。先駆けの寄せ手五百余人は、散々に切り立てられて、門より外へさっと引きました。けれども寄せ手は大勢でしたので、先陣が引くと二陣が喚きながら駆け入りました。駆け入れば追い出し、追い出だせば駆け入り、辰の刻([午前九時頃])のはじめより午の刻([御前十三時頃])の終わりまで、火が出るほどに戦いました。
(続く)