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「曽我物語」富士野の狩場への事(その24)

時致ときむね、これを聞きて、「あはれ、源太げんだ、我々をすかさんと思ひたる気色きしよくの差しあらはれたる奴かな。じやは一寸を出だして、その大小だいせうを知り、人は一ごんを以つて、その賢愚けんぐを知る。狐の子は、子狐より、父がそんを継ぎて、この冠者くわんじやつらの白さよ。いつの奉公に依りてか、御気色ごきしよくもよかるべき。定めて、御寮ごれうおほせには、その冠者くわんじやばらは、誰が許して、狩場へは出でけるぞ。よくよくすかし置きて、首を斬れとの御諚ごぢやうか、流罪せよとのおほせにてぞあるらん。にや、古き言葉を案ずるに、国のけんを以つてこうし、へつらひを以つて衰ふ。君は忠もて安じ、いつはりを以つて危ふし。人は、たくみにして偽らむよりも、つたなうして誠あるにはしかず。この者の振る舞ひ・言葉、世のわづらひともなりぬべし。そのうへ、奉公まうすべき為ならず。あはれ、身に思ひだになかりせば、この冠者くわんじやつら、一太刀斬つて慰まんずるものを」とぞまうしける。




時致(北条時致)は、これを聞き、「何という奴だろう、源太(梶原景季かげすゑ)は、我々を騙そうとしておる。蛇は一寸を出だして、その大小を知り、人は一言を以って、その賢愚を知るという(蛇は一寸にしてそのかたちを知り、人はその一言にてその志を知らる=余計なことをして、思いもしない結果招くこと)。狐の子は、子狐より、父の孫([血筋])を継いで、この冠者(景季)の何とずる賢いことよ([狐の子は頰白つらじろ]=[子が親に似ることのたとえ。])。いつの奉公によって、君(源頼朝)は気に入られておるのだろう。おそらく、御寮(頼朝)の仰せには、その冠者ども(曽我祐成すけなり時致ときむね)は、誰が許して、狩場に出ておるのだ。うまく騙して、首を斬れとの御諚([命])か、流罪にせよとのことであろうよ。まこと、古い言葉を思えば、国は賢人の諌めによって栄え、媚びによって衰える。君は忠義があれば安泰し、讒言によって危うくす。人は、巧みに人を欺くよりも、ばか正直であるべきぞ。景季の振る舞い・讒言は、世の煩いともなるであろう。どうせ、奉公のためにしておるのではないであろう。ああ、願いさえなければ、この冠者(景季)の面を、一太刀に斬って気を晴らしたいものだが」と申しました。


続く


by santalab | 2015-11-26 08:05 | 曽我物語

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