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「太平記」大森彦七事(その11)

その後より盛長もりなが物狂はしく成つて、山をわがり水をくくる事無休時。太刀を抜き矢を放つ事隙なかりける間、一族ども相集あひあつまつて、盛長を一間なる所に推し篭めて、弓箭兵杖きゆうせんひやうぢやうを帯して警固のていにてぞ居たりける。ある夜また雨風一頻ひとしきとほつて、いなづまの影しきりなりければ、すはや例の楠木こそ来たれと怪しむところに、如案盛長が寝たる枕の障子をかはと蹈み破つて、数十人すじふにん打ち入る音しけり。警固の者ども起きふためいて太刀長刀の鞘を外はづして、夜討ち入りたりと心得て、敵はいづくにかあると見れ共更になし。こはいかにと思ふところに、自天井熊の手の如くなる、毛生ひて長き手を指し下ろして、盛長がもとどりを取つてちゆうに引つ提げ、破風はふの口より出でんとす。盛長中に提げられながらくだんの刀を抜いて、化け物の真つ只中を三刀みかたな指したりければ、被指てちと弱りたる体に見へければ、むずと引つ組んで、破風より広庇ひろびさしの軒の上に転び落ち、取つて推し付け、重ねて七刀ななかたなまでぞ指したりける。化け物急所を被指てやありけん、脇の下より鞠の勢なる物ふつと抜け出でて、虚空を指してぞ挙がりける。




その後盛長(大森盛長)は正気を失って、休む間もなく山を走り水に潜るようになりました。太刀を抜き矢を放つこともなく、一族どもは集まって、盛長を一間の所に押し籠めて、弓箭兵杖を帯して警固しました。ある夜また雨風が一頻り通って、しきりに雷光がしたので、楠木(楠木正成)が来たかと怪しむところに、思った通り盛長が寝ている枕元の障子を踏み破り、数十人が打ち入る音がしました。警固の者どもは起き上がるとあわてて太刀長刀の鞘を外して、夜討ちだと思い、敵はどこにいるかと見ましたが姿はありませんでした。これはどういうことかと思っていると、天井から熊の手のような、毛に覆われた長い手が下り、盛長の髻を掴んで宙に引き提げ、破風([切妻造や入母屋造の屋根の両端の三角部分])の口より出ようとしました。盛長は宙に提げられながら件の刀を抜いて、化け物の真つ只中を三刀刺すと、刺されて弱るように見えたので、むずと引っ組んで、破風より広庇の軒の上に転び落ち、取って押し付け、重ねて七刀刺しました。化け物は急所を刺されて、脇の下より鞠の勢のようなものを吐き出すと、虚空を指して上って行きました。


続く


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by santalab | 2015-12-18 07:22 | 太平記 | Comments(0)

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