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「太平記」主上・上皇御沈落事(その3)

北の方、越後ゑちごかみの鎧の袖を控へて、「などやかくうたてしき言の葉に聞こへはんべるぞや。この折節をりふしをさなき者なんど引き具して、知らぬあたりに休らはば、誰か落人おちうどのその方様と思はざらん。また日来より知つたる人の傍りに立ち宿らば、敵に捜し被出て、我が身の恥を見るのみにあらず、少き者の命をさへ失はん事こそ悲しけれ。道にて思ひの外の事あらば、そこにてこそ共にともかくも成り果てめ。憑む陰なきもとに、世を秋風の露の間も、被棄置まゐらせては、永らうべき心地もせず」と、泣き悲しみ給ひければ、越後の守も心はたけしといへども、流石さすが岩木いはきの身ならねば、慕ふ別れを捨て兼ねて、遥かに時をぞ移されける。




北の方は、越後守(北条仲時なかとき。鎌倉幕府最後の六波羅探題北方)の鎧の袖を控えて、「どうしてそのようなことを申されるのです。今幼い者を連れて、知らぬ場所に落ち着けば、落人の妻と思わぬ者がどこにおりましょう。また日頃より知った人の許に宿れば、敵に捜し出されて、我が身の恥を見るばかりでなく、幼い子の命さえ奪われるかと思えば悲しくて。道中にて思いのほかのこともあらば、そこで共にいかにもなりましょう。頼む陰のない木の下では、世を秋風に吹かれる露の間さえ、捨て置かれては、とても永らえるとも思えません」と、泣き悲しんだので、越後守(北条仲時)も心は猛くありましたが、さすがに心ない岩木の身ではなかったので、我を慕う妻との別れを捨てかねて、遥かに時を移しました。


続く


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by santalab | 2015-12-23 10:09 | 太平記 | Comments(0)

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