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「太平記」主上・上皇御沈落事(その6)

いづくにありとも知らねば、馳せ合はせて敵を可討やうもなし。また忍びて落つる道なれば、傍輩はうばいに知らせて可返合にてもなし。ただ同じ枕に自害して、後世までも主従しゆうじゆうの義を重んずるより外の事はあらじと思ひければ、糟谷泣く泣くしゆうの首を取つて錦の直垂ひたたれの袖につつみ、道のかたはらの田の中に深く隠してすなはち腹掻き切つて主の死骸の上に重なつて、抱き着いてぞ伏したりける。




どこにいるとも知れず、馳せ合わせて敵を討つことも適いませんでした。また忍んで落ちるところでしたので、傍輩に知らせて返し合わすこともできませんでした。ただ同じ枕に自害して、後世までも主従の義を重んじるほかはないと思い、ずるより外の事はあらじと思ひければ、糟谷(糟屋時広ときひろ)は泣く泣く主(時益ときます。最後の六波羅探題南方)の首を取って錦の直垂の袖に包み、道の傍らの田の中に深く隠すとたちまち腹を掻き切って主の死骸の上に重なって、抱き着いて臥しました。


続く


by santalab | 2015-12-26 07:06 | 太平記

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