その後四五町引き下がりて、思ひ思ひに鎧うたる兵十万余騎、兜の星を輝かし、鎧の袖を重ねて、沓の子を打ちたるが如くに道五六里が程支へたり。その勢ひ決然として天地を響かし山川を動かす許りなり。この外外様の大名五千騎・三千騎、引き分け引き分け昼夜十三日迄、引きも切らでぞ向かひける。我が朝は不及申、唐土・天竺・太元・南蛮も、未だこれほどの大軍を発こす事難有かりし事なりと思はぬ人こそなかりけれ。
その後四五町引き下がって、思い思いに鎧を身に着けた兵十万余騎が、兜の星を輝かし、鎧の袖を重ねて、まるで沓の子を打ったように([沓の子を打つ]=[たくさんの人や物がすきまなく立ち並ぶ様])道五六里を固めていました。その勢いは決然([思い切った様])として天地を響かし山川を動かすほどでした。このほか外様の大名五千騎・三千騎、引き分け引き分け昼夜十三日まえ、引きも切らずに向かいました。我が朝は申すに及ばず、唐土(中国)・天竺(インド)・太元(モンゴル)・南蛮(東南アジア)でも、いまだこれほどの大軍を起こすことはなかったと思わない人はいませんでした。
(続く)