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「太平記」天下怪異の事(その4)

御門守護の武士ども御車を押さへて、「誰にて御渡り候ふぞ」と問ひまうしければ、藤房ふぢふさ季房すゑふさ二人ににん御車に随つて供奉したりけるが、「これは中宮の夜に紛れて北山殿へ行啓ぎやうけいならせ給ふぞ」とのたまひたりければ、「さては子細候はじ」とて御車をぞとほしける。兼ねて用意やしたりけん、源中納言具行ともゆき按察あぜち大納言公敏きんとし六条ろくでうの少将忠顕ただあき三条河原さんでうがはらにて追つ付き奉る。ここより御車をば被止、怪しげなる張輿はりごしに召し替へさせまゐらせたれども、にはかの事にて駕輿丁かよちやうもなかりければ、大膳の大夫だいぶ重康しげやす楽人がくにん豊原の兼秋かねあき随身ずゐじんはだ久武ひさたけなんどぞ御輿をば舁き奉りける。供奉の諸卿しよきやう衣冠いくわんを解いで折烏帽子をりゑぼし直垂ひたたれを着し、七大寺まうでする京家きやうけ青侍あをさぶらひなんどの、女性によしやうを具足したるていに見せて、御輿の前後にぞ供奉したりける。




御門守護の武士どもが車を止めて、「誰のお渡りぞ」と訊ねると、藤房(万里小路藤房)・季房(万里小路季房)二人は車に付いて供奉していましたが、「中宮(西園寺禧子きし)が夜に紛れて北山殿(西園寺公経きんつねが建てた別荘)へ行啓になられるのだ」と申せば、「ならば構わぬ」と申し車を通しました。かねて用意していたのか、源中納言具行(北畠具行)・按察大納言公敏(洞院公敏)・六条少将忠顕(千種忠顕)が、三条河原で追い付きました。ここより車を止めて、怪しげな張輿([屋形と左右の両側を畳表で張り、押縁おしぶちを打った略式の輿])に替えられて、急ぎのことでしたので駕輿丁([貴人の駕籠や輿を担ぐ人])もいませんでしたので、大膳大夫重康・楽人豊原兼秋・随身([貴族の外出時に護衛として随従した近衛府の官人])秦久武らが輿を舁きました。供奉の諸卿は皆衣冠を解いで折烏帽子に直垂を着し(武士の装い)、七大寺詣で([南都七大寺=東大寺・興福寺・元興寺・西大寺・薬師寺・大安寺・法隆寺を巡拝すること])のため京家([公家])の青侍([公卿の家に仕える六位の侍])どもが、女性を具足した風に見せて、輿の前後に付きました。


続く


by santalab | 2016-01-13 13:39 | 太平記

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