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「太平記」笠置軍事付陶山小見山夜討事(その15)

これ皆千に一つも生きて帰る者あらじと思ひ切つたる事なれば、兼ねての死に出で立ちに、皆曼陀羅まんだらを書いてぞ付けたりける。差しなは十丈じふぢやう許り長きを二筋ふたすぢ、一尺計り置いては結び合はせ結び合はせして、その端に熊手を結ひ付けて持たせたり。これは岩石などの被登ざらん所をば、木の枝岩のかどに打ち懸けて、登らん為の支度なり。その夜は九月晦日つごもりの事なれば、目指すとも不知暗き夜に、雨風あめかぜ烈しく吹いて面を可向やうもなかりけるに、五十ごじふ余人の者ども、太刀を背中に負ひ、刀を後ろに差いて、城の北に当たりたる石壁の数百丈すひやくぢやうそびえて、鳥も翔けり難き所よりぞ登りける。




これは皆千に一つも生きて帰る者はあるまいと思い切ったことでしたので、死に出で立ちに、皆曼陀羅を書いて付けました。差し縄([馬の轡にかけて、引いたりつないだりする縄])の十丈ばかり長いものを二筋、一尺ばかり毎に結び合わせ結び合わせして、その端に熊手を結び付けて持たせました。これは岩石など登れない所を、木の枝岩の角に懸けて、登るための支度でした。その夜は九月晦日のことでしたので、目指す先も見えぬ暗い夜に、雨風が激しく吹いて顔を上げることもできないほどでしたが、五十余人の者どもは、太刀を背中に負い、刀を後ろに差して、城の北に当たる石壁が数百丈も聳えて、鳥も翔け難き所より登りました。


続く


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by santalab | 2016-01-20 08:30 | 太平記 | Comments(0)

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