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「太平記」和田楠与箕浦次郎左衛門軍の事(その4)

敵これを見て、これはいかさま降人かうにんに出づる者かと、少し猶余いうよして控へたるところに、歩立かちだちなる石津いしづ助泰則五郎すけごらう行泰に、矢二筋ふたすぢ三筋さんすぢ射させて、敵の馬の足ちとしどろになれば、三騎の者どもをつとをめいて懸け入るに、百騎ばかり控へたる敵さつと分かれ靡きて、敢へてこれに当たらんとせず。ただ射手を進めて射させけるほどに、箕浦弥次郎やじらう討たれぬ。同じき四郎左衛門しらうざゑもん深手を負うて田中に臥したり。塩冶えんや六郎左衛門ろくらうざゑもん・木村兵庫も、馬の平首ひらくび草脇くさわき二所射させて深田のあぜに下り立つたり。すはや討たれぬと見へけるが、木村兵庫放れ馬のありけるに打ち乗つて、徒歩かちに成りたる塩冶を、馬の上より手を引いて尼崎へ落ちて行く。敵跡に付いても追はざりければ、道場だうぢやうの内に一夜隠れ居て明けの夜京へぞ上りける。




敵はこれを見て、これはきっと降人に出る者かと、少し眺めて控えるところに、歩立の石津助五郎行泰に、矢を二筋三筋射られて、敵の馬の足が乱れたので、三騎の者どもが喚いて駆け入りました、百騎ばかり控えた敵はさっと分かれて、あえて組もうとする者はいませんでした。ただ射手を進めて射させたので、箕浦弥次郎が討たれました。同じく四郎左衛門も深手を負って田に臥しました。塩冶六郎左衛門・木村兵庫(泰則)も、馬の平首([馬の首の、両側の平らな所])・草脇([ 馬や鹿などの獣の胸先の部分])二所を射られて深田のあぜに下り立ちました。すでに討たれると見えましたが、木村兵庫が放れ馬に打ち乗って、徒歩になった塩冶を、馬の上より引き上げて尼崎へ落ちて行きました。敵は後を追わなかったので、道場([寺])の中に一夜隠れて翌日の夜に京に上りました。


続く


by santalab | 2016-02-11 21:32 | 太平記

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