山におはして、例せさせ給ふ様に、経仏など供養ぜさせ給ふ。またの日は、横川におはしたれば、僧都驚き畏まり聞こえ給ふ。年来、御祈りなどつけ語らひ給ひけれど、殊にいと親しきことはなかりけるを、この度、一品の宮の御心地のほどに候ひ給へるに、「勝れ給へる験物し給ひけり」と見給ひてより、こよなう尊び給ひて、今少し深き契り加へ給ひてければ、「重々しうおはする殿の、かくわざとおはしましたること」と、もて騷ぎ聞こえ給ふ。御物語など、細やかにしておはすれば、御湯漬など参り給ふ。
薫大将は山(比叡山)に上られて、いつものように、経仏を供養されました。次の日は、横川を訪ねられたので、僧都は驚いて畏まりました。長年、祈祷など頼まれていましたが、とりわけ親しい間柄ではありませんでした、けれどもこのほど、一品の宮の病気の折、「大した霊験を顕された」と思われて、たいそう尊びになられ、少し深い契りを結ばれようとしてのことでした、横川では「重職に就いておられるお方が、わざわざお出でになられた」と、騒ぎになりました。話など、細々とされて、湯漬を出されました。
(続く)